スティーブ・ウォズニアックのファーストネームについて
ウィキペディアのスティーブのファーストネームに疑義がある
ウォズのファーストネームはステファンなのか、それともそもそもスティーブンなのか、という論争は日本では昔からあった。ウィキペディアでは現状ステファンになっており、生まれた時はステファンとつけたが母親がスティーブンに変えたと記載されている。だが、このくだりに疑問がある。
ウィキペディアがステファンを採用しているのは、「アップルを創った怪物」(井口耕二 訳)に根拠を求めている。
「アップルを創った怪物: もうひとりの創業者、ウォズニアック自伝」の該当ページを見てみよう。
アップルを創った怪物: もうひとりの創業者、ウォズニアック自伝 - スティーブ・ウォズニアック - Google ブックス
これを読みの根拠とするのは、かなり危ういと思う。
原文の「iWoz」の同じ箇所を見てみると、ここはフルネームの発音については触れず、スペリングの話しかしていない。
iWoz: Computer Geek to Cult Icon - Steve Wozniak - Google ブックス
英語版のウィキペディアでも、stephanとstephenの綴り/スペリングのことを言っているだけで、発音についての話題は見当たらない。
参照元の書籍を読めば、母親が名前を変えたという記述も事実でないことがわかる。誰のどういう間違いかは不明だが、「Stephen」と名付けたつもりが、誤って「Stephan」で登録されてしまっている、という話でしかない。
そもそも、彼が自分の名前が「stéfən」系の発音で言った記録はないと思う。私の知る限り、ずっと「stíːvən」で通している。ほんとうに「stéfən」が本来の名前の発音で、「stíːvən」がその慣用読みでしかないのなら、名前のスペルの時に触れてもおかしくないはずだ。
スティーブンと名付けるつもりで「stephen」の綴りで登録したはずだったのが、スティーブンともステファンとも読まれる「stephan」として謝ってスペリングされた……という話をしていたものが、訳する際にわかりやすくするために「ステファン」と書いたものではないのか。
一般論としてのStephenについて。
ちなみにウィズダム英和辞典だと、このように、断り書きがない限り「Stephen」はスティーブンと読むのが普通。
ランダムハウス英和大辞典でも、読み方の例示は一つ。
特に断りのない場合、米国ではStephenはスティーブンと考えるのが通常であろう。
具体的に、訳者の井口さんに質問をしてみた。
10年以上も前の話なので記憶はありません。StephaneあるいはStephanでスティーブンと読む場合もあるのですが、この本では、音が違っていないと話がつながらなくなるので、Stephaneの読みに使われることが多いステファンにしたのではないかと。
— 井口耕二 a.k.a. Buckeye (@BuckeyeTechDoc) July 15, 2018
ウォズがステファンと言うことはないでしょうね。出生証明書はまちがいで、自分はStephen(スティーブン)と綴ってると言ってるくらいですから。
— 井口耕二 a.k.a. Buckeye (@BuckeyeTechDoc) July 15, 2018
すくなくとも、「アップルを創った怪物: もうひとりの創業者、ウォズニアック自伝」を、名前の読みの根拠として使用するのは不適切であることは明らかになったと思う。
というわけで、ウィキペディアのウォズの本名がステファンであるという記述は疑わしい。ところがウィキペディアには半端に権威があるので、ウィキペディアに書いてあるからと素直に信じる人が多い。ここから自動的に引用しているサイトも少なくない。いい加減な記述が半端な権威を伴って広がっていくことに、大きな不安と憤りを覚える。