紙ブグロはてな

新しいものについ飛びついてしまった後悔を綴ることになりそうな気がするけれどならないかもしれないブログ。

ニップゲームについて新しくわかったこと

ニップというゲームについて、以前紹介した。
kamibglo.hatenablog.com

今回の記事は、ほぼ1年ぶりのその記事の続きである。ここまでのところで見つけた、ニップについての新しい情報を記載する。

古いタイプのニップゲームについてわかってきた。

ニップゲームの実物

下記のブログでは、小樽和光荘(現在は非公開の歴史的建築物)の中に、ニップゲームが展示してあった写真が掲載されている。
dosanko-camera.hatenablog.com
古いタイプのニップゲームだが、見たところそれなりに高級感もあり、単なるおもちゃというよりは、大人でも楽しめる知的ゲームとして扱われていたのではないかと思われる。
小樽和光荘が現在公開されていないのは実に残念だ。現物を生で見たかった。

おそらくこれと同じ商品が、他のブログでも紹介されていた。こちらは盤を正面から撮った写真があり、文字などがきちんと確認できる。
kuupoko.exblog.jp
記事中に実用新案の番号が記載されている。187845。これは、Wikipediaの過去の記事に記載されていた内容「1933年実用新案登録187845号、考案者は松本彌助」と一致する。ゲームのルール自体は既存のリバーシ/源平碁と共通なので、ここでの「実用新案」は盤面のレイアウトを若干変更した部分が新規性として扱われたのではないか。

1960年代に祖父母と遊んだと記述があるので、この商品はオセロよりも古いものだとわかる。
興味深いのは、盤面の色が緑色であること。ゲームボードの色が緑色であることは、オセロにとっては特筆すべき独自性として扱われていたけれども、実はニップゲームの方が先に緑色の盤面を使用していたという意外な事実が判明した。

通販カタログに見えるニップゲーム

下記のブログの2006年3月7日の記事に、昭和14年(1939年)の三越の通販カタログについての簡単な記述がある。
blog.goo.ne.jp

ゲームをいろいろ売ってます。「ニップゲーム」とか「カロム」とか
読んでもわかりません。すでになくなったゲームでしょうね。

小さい写真が掲載されているのだが、その右下に注目すると、確かに古いタイプのニップゲームらしき盤面が写っている。

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ニップらしきゲームの盤面
かすかに盤面の角に文字か何かが書かれていることが見える。もしかすると、同一の商品かもしれない。

どの記事も、メーカーについての記事がないのが残念である。

発売時期の推測

ボードゲームウォーカーの国内ゲーム販売史によると、昭和12年(1937年)に倉持商店から「ニップゲーム」が発売されている。もしかするとこの商品がそれなのかもしれない。実用新案登録時から4年ほど間隔があるから、これより以前にも「ニップゲーム」の発売があったかもしれない。
www.asahi-net.or.jp

携帯版「皇軍萬歳 ニップゲーム」

古書店にて、携帯用の簡易ニップゲームのパッケージを手に入れた。
未使用のようだが、古いものなのでぼろぼろで、パーツの欠品も見られる。

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紙箱パッケージ。
本来は箱状であったと思われるパッケージだが、現在は劣化して前面と後面がバラバラになっている。
パッケージのデザインを見た感じ、上記の既出のゲーム盤と同じメーカーによるもののように思われるが、こちらもメーカー名の記述はない。TとSを組み合わせたようなロゴがあるが、これは倉持商店のロゴではない*1。何かの表示か?今のところ不明である。
実用新案の表記だけでなく、満州国での意匠登録も記されているのが興味深い。時代だなあ。

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盤面用紙
盤面は厚紙でできており、折りたたまれていた。ニップゲームの表記および実用新案の表記は、既出のゲーム盤と同様だが、盤面の色は源平碁と同様の黄色が選ばれている。初期配置の表示あり。色がずれているのは、たぶんデザインでそうしているのだろうか?赤と白の相対的な位置関係は概ね合っているので、デザインでわざとそうしているようにも見えるが、大胆な版ずれの可能性もある。

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説明書
盤面裏は説明書になっている。ルールは盤面の形を除いて現行のオセロと似ている。
「両者とも打つ場所がない場合」に任意の場所に打って良いというのがユニークかもしれない。相手にパスをさせて、さらに自分も打つ場所がないときに、どちらに着手権があるのかがこの説明では不明だ。
勝敗の説明に関しての箇所では、ハンディキャップをつけるとか、持牌が切れたら終わりなど、細かい説明がない箇所が散見される。中途半端に追加の記述をしたためにかえってルールが曖昧になってしまっている。
興味深いのは「石」でも「駒」でもなく、「牌」であるところ。骨牌からの類推で名前をつけたのだろうか。

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厚紙の両面に、白と赤の薄紙を張り合わせて、型で丸く切りぬいて「牌」は出来ている。未使用らしく、抜いてない牌がほとんどだが、薄紙の剥がれや牌の脱落などがある。

一旦のまとめ

戦前に販売が始まった古いタイプのニップゲームは、オクトリバーシ/エイトスターズオセロ(88オセロ)につながる系譜の8角形盤面のものであることが現物で確認できた。方形ではない盤面という意味では、Annexationへの先祖返りという風にも捉えることができる。
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一方で、現在普及している円形盤面のニップについては、新しい情報は得られていない。
「デラックス逆転ゲームニップ」の発売が1975年なのだが、これ以前に円形の盤面のニップがあったかどうかも不明だ。想像なのだが、古くからリバーシ/源平碁を販売していたはなやま玩具株式会社が、1973年発売のオセロのヒットに対抗して、オセロ以上のゲーム性を生み出そうと開発したのが、円形盤面のニップなのではないだろうか。かつてのウィキペディアの記事にあった、ハナヤマが「逆転スリルのあるもの」というコンセプトで開発したという記述のソースになる情報がわかるといいのだが……。
この新しいニップが、古いニップの影響下にあるのか、それともたまたま同じ名前なのか、わからないことはまだたくさん残っている。

*1:倉持商店は菱形の中にC.Kと書かれたものをトレードマークにしていた