ニップの起源が知りたい
円形オセロとも呼ばれる「ニップ」というゲームをご存知だろうか。ルール的にはオセロ/リバーシとほぼ変わりないのだけれど、盤に角がないため、ゲーム終盤になっても形成が読みにくい面白いボードゲームだ。
ダイソーの100円リバーシを改造してニップに作り変えた。角がないから油断していると最後に外周ぐるっと返されて大逆転になったりする。楽しい。 pic.twitter.com/xnTgW6EtG9
— たぬきのたからばこ(カラバコ) (@hi_kmd) March 19, 2017
このゲーム、少なくともオセロよりも古い。オセロの生みの親とされる長谷川五郎氏もオセロに先行する「はさんだら取る」タイプのゲームの先行者として「源平碁,リバーシ,ニップなどの名がありました。」(「オセロの打ち方」長谷川五郎著)と、リバーシとともに列挙している。それなりに巷間にひろまったゲームなのであろうと思う。
Wikipediaで探してみる
しかしニップについての情報は少ない。数少ない記述を探してWikipediaのオセロの過去記事をたどると、ソース不明の情報に行き当たる。下記は、最も情報が多かった頃の記事。
オセロやリバーシと類似したゲームに「ニップ(Nip)」がある。リバーシを含む20種類のゲームのセット「ゲームスタジアム20(トゥエンティ)」、同じく11種類のゲームで持ち運び可能なセット「ゲームスタジアム11(イレブン)」等の中のひとつとしてハナヤマから発売されている。円形の盤とオセロやリバーシと同様の両面が白と黒の駒を使用する。基本的なルールはオセロやリバーシと変わらないが、隅が存在しないので全ての方向(縦、横、斜めに加えて円周も)の駒を返すことができる。そのため終盤でも展開が非常に読みにくい(「隅を押さえれば勝ち」のパターンは通用しない)。
交点の数はオセロやリバーシの升目より少ない52個である。初期配置はリバーシと同じくd4とe5に黒駒を置く。外周を円形にしているため、図のa3-b3やc1-c2などの交点が接近している場所は駒が置きにくいという欠点がある。
このニップは登場時期は不詳だが、「ニップゲーム」として太平洋戦争以前から存在していた(1933年実用新案登録187845号、考案者は松本彌助) 。当初は白黒ではなく白赤の駒で遊ばれており、また盤も円形ではなく、通常のオセロやリバーシの盤面の a1, b1, a2, g1, h1, h2, a7, a8, b8, g8, h7, h8 の升目を除いた八角形状の形のものが用いられていた。また、外周全体を一直線のように扱うルールはなく、8つの隅を持つ後述の「88オセロ」に近いものであったと考えられる。
かつてはハナヤマがニップ単品で販売していたが、1996年発売の持ち運び可能な11種類のゲームのセット「ゲーム11(イレブン)」(製造中止、「ゲームスタジアム11」の前身の一つ)から順次、前述したように他のゲームとのセット商品となり、単品販売がなくなった。ちなみにニップとは、英語で「挟む」を意味する。
オセロ (遊戯) - Wikipedia
ニップの起源については不詳とあるが、実用新案登録がなされ、盤面が当初は現行と違う*1ものであったことが記述されている。
太平洋戦争以前から存在していたなど、ニップ初期に関する部分の記述が気になるので、誰がどういう経緯で加筆したものかログを辿ってみると、とあるIPユーザーの記述に行き当たる。下記は、そのユーザーによる3度の更新である。
このニップは時期は不祥だが、「ニップゲーム」として太平洋戦争以前から存在していたことは確実である<!-- http://page11.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/n38930965 -->。
記事中にコメントとして、ヤフーオークションのURLがある。おそらく、盤面の形状や石の色がわかるような商品が出品されていたのであろう。しかし今となってはトレース不可能である。
このニップは時期は不祥だが、「ニップゲーム」として太平洋戦争以前から存在していたことは確実である(実用新案登録 187845 号)
このニップは時期は不祥だが、「ニップゲーム」として太平洋戦争以前から存在していた(1933年実用新案登録 187845 号、考案者は松本彌助)
立て続けに実用新案の注釈が書き足されている。ヤフオクのパッケージ画像に掲載されていたものに気付いて書き足した、といったところだろうか。
もう少し古い記述を遡る。下記もIPユーザーによる記述。ソースはない。
このニップは、時期は不祥だが、ハナヤマがリバーシよりも逆転スリルのあるものをというコンセプトで、リバーシをベースに独自に円形のボードを開発して誕生したものだという。当初はニップ単品で販売されていたが、1990年代半ばから先に書いた他のゲームとのセット商品となり、単品販売がなくなった。
「誕生したものだという。」とあるが、[誰?]テンプレートをつけたくなる。このユーザーの所持する商品にそういう記述があったのかもしれない。
実用新案を取った人物は「松本彌助」とあるが、これはハナヤマの関係者だろうか。それとも、角が4つあるニップを円形のニップに改変したのがハナヤマなのだろうか。
実用新案の番号を元に調べられそうだが、出願時期が古すぎてウェブ上の検索では出てこない。
メーカーに尋ねてみる
自分が調べた限りでは、ニップの商品を出していたのはハナヤマ以外には見つかっていない*2。おそらく、ニップについて最も詳しい企業はハナヤマのはず。
実は以前、ニップについてハナヤマのホームページの問い合わせフォームに質問を送ったことがあるのだが、残念なことにニップの起源について情報を持っていないということであった。過去商品のパッケージを手当たり次第漁ればあるいは記録があるかもしれないが、それを調べるのはハナヤマの業務ではないので仕方がない。
書籍を探ってみる
おもちゃや遊戯の記録は、書籍などの形できちんと残らないことがしばしばある。だから、些細なことでも書籍に載っていると大変嬉しい。黒井千次氏の「老いのつぶやき」に、若干ニップについて触れているくだりがある。
記述によると、現在流通しているニップではなくて、角になる箇所が8つあるタイプの古いほうのニップゲームだ。黒井氏(1932年生まれ)が子どもの頃とあるから、1940〜1950年頃のニップゲームは、こういう形だったのだろう。
この書籍のおかげで、ソース不明だった盤面が違う当初の古いニップの存在が、どうやら間違いないことがはっきりした。
この頃は升目の中に石を置いていたであろうことも読み取れる。ただ、角の升目の欠ける分量が違う。Wikipediaの記述だとそれぞれの角から三つずつ、合計12個の升目を除くとあるが、この本では除く升目の数が少ない。
ほかに、Google Booksで下記の書籍にニップについて記載があるのを見つけた。
どんなゲームかはわからないが、五目並などと並んで二人で楽しむゲームとして普及していた様子が感じられる。時期的にも整合する。おそらく、こちらも古いタイプのニップであろう。
円形の特徴的なボードの誕生については、未だ分からないままである。戦後にハナヤマが取り組んだ仕事ではないかと想像しているけれど、ほとんど記録がない。どなたかゲーム研究家の方で、ニップに詳しい方はいないものだろうか……。